大企業とサプライチェーンを構成する中小企業における新型インフルエンザ対策上の連携に関するインタビュー調査
| 企業向け新型インフルエンザ対策研究
 
【研究課題】
 大企業とサプライチェーンを構成する中小企業における新型インフルエンザ対策上の連携に関するインタビュー調査

【研究分担者】
 今井鉄平
 上原正道
 西埜植規秀
 森 晃爾
産業医科大学産業生態科学研究所・環境疫学研究室・非常勤講師
産業医科大学産業生態科学研究所・環境疫学研究室・非常勤助教
産業医科大学産業生態科学研究所・環境疫学研究室・非常勤助教
産業医科大学産業医実務研修センター所長・教授

■ 本ページの目次 ■
  1.研究要旨
2.研究目的
3.研究方法
4.研究結果
5.考察
6.結論
7.研究発表


研究要旨
 
 大企業のサプライチェーンを構成する中小企業において、新型インフルエンザ対策に関連して、大企業からどのような支援が可能かその実態や課題を明らかにするため、製造業と小売業からなる大企業4社とそのサプライチェーンを構成する中小企業6社を対象に、それぞれインタビュー調査を実施した。
 その結果、流行期の感染防止に関する情報提供に関しては、大企業側も提供は可能と考えており、実際に2009年の流行期に中小企業に情報提供を行った企業もあることが分かった。また、中小企業側の情報提供に対するニーズも高いことが分かり、流行期には、大企業が中小企業にとっての重要な情報発信源となり得ることが示唆された。しかしながら、グローバル・マルチカルチャーへの対応、平時からの双方の信頼関係の構築など、流行期に効果的に情報発信が行われるために検討が必要な課題も明らかになった。また、事業継続計画(BCP)に関しては双方で有効な連携が取れておらず、連携推進のために特に大企業側で検討すべき課題が明らかになった。



研究目的
 
 中小企業における新型インフルエンザ対策の定着促進のためには、流行期に必要な情報提供や支援がなされることが重要な要素の一つとなる。大企業のサプライチェーンを構成する中小企業においては、大企業からの支援が期待できるが、実際に大企業側でどのような支援が可能かは不明である。本調査では、2009年度の新型インフルエンザ(A/H1N1)流行期に、大企業からそのサプライチェーンを構成する中小企業にどのような支援がなされたか、また、双方で流行期にどのような連携を取ることが可能かを明らかにすることを目的に大企業および中小企業の担当者を対象にインタビュー調査を実施した。



研究方法
 
1) 対象
 本研究の初年度である平成21年度において、幅広い業種からなる18社を対象に、各企業の新型インフルエンザ対策に関するインタビュー調査を行った。その内、本調査への協力の得られた4社の購買または物流部門担当者を対象に、サプライチェーン企業対策に関するインタビュー調査をH22年9月〜12月に実施した。また、調査対象の製造業3社から、サプライチェーンを構成する小企業(従業員300名未満)を紹介していただき、製造または物流業からなる計6社の新型インフルエンザ対策担当者を対象に大企業との対策上の連携に関するインタビュー調査を実施した。大企業のサプライチェーンの構成(概要)については、以下のようになっている。
・製造業(購買):包材や部品を部品メーカーから購入しており、メーカー数は数百社に及ぶ。部品については、購買部門がメーカーの窓口となっている。
・製造業(物流):完成した製品を運送業者を通じて、顧客や建築現場等に配送しており、業者数は数社となる。物流部門が業者の窓口となっている。
・小売業:商品を数社の卸売りを通して購入しており、メーカー数は数千社に及ぶ。

2) 質問項目
 大企業と中小企業の担当者における担当者の意識の差異を評価すべく、双方で共通する質問項目を設けた。具体的な項目は以下のとおりであり、その詳細の質問内容は、資料1として添付した。【資料1のダウンロード

<大企業担当者への調査項目>
 ①小企業で感染者が多数出た場合の事業への影響度
  ②中小企業に提供可能な(実際に提供した)サポート
  ③対策に関連した中小企業との情報交換
  ④企業対策や一般的な感染予防に関する情報提供
  ⑤中小企業側からの要望
<中小企業担当者への調査項目>
  ①流行期における事業継続への取り組み
  ②流行期に大企業より受けたいサポート
  ③対策に関連した大企業との情報交換
  ④大企業より提供を受けた企業対策や一般的な感染予防に関する情報
  ⑤大企業への要望


研究結果

 各企業におけるインタビュー調査結果の詳細は、資料2に示すとおりである。【資料2のダウンロード

1. 事業継続計画(BCP)への取り組み
  1) 事業への影響度
<大企業>
 いずれの企業も、中小企業の事業が停止してしまった際には、生産ラインや出荷が停止してしまうなど、事業への深刻な影響が想定された。『数百あるサプライチェーン企業の1社が欠けても生産ラインがとまってしまう』と回答する企業もあった。
<中小企業>
 『数人が休む程度なら何とか事業を継続できるが、それ以上の欠勤が出てしまった際には事業を停止せざるを得ない。事業が停止すると企業存亡の問題となる。』とする企業がみられた。

  2) 事業継続計画(BCP)への取り組み
<大企業>
 地震対策も含めたBCPの中で、東日本と西日本で別々の部品製造会社を選定するという対策を行っている企業もみられたが、概ねサプライチェーン企業対策に関しては事業継続計画の中で想定をしていなかった。関連する企業が(海外も含めて)数百にのぼるため対策の検討が難しい、特定の経験や資格を有する業務のため代替化が効かない、対策本部でサプライチェーン対策に関する方針を出していない等がBCP上の検討の進まない理由として挙げられた。
<中小企業>
 従業員への情報提供など感染防止策に関する取り組みを行っている企業はあったが、BCPを策定している企業はなかった。BCP策定を行っていない理由として、『大企業の要求事項が分からないので対策のたてようがない』ことを挙げる企業もあった。

2. 流行期における支援
  1) 2009年流行期におけるサポート
<大企業>
 感染防止策に関する情報提供については、2009年の流行期に何らかの形で大企業から中小企業に対して、サポートを行った企業がみられた。情報は企業としての方針や対策(構内入場の際の留意事項等)に関する内容が中心で、企業としての方針が決まった直後(5月中旬頃)に、企業活動において重要なポジションを占める中小企業を選別して、提供が行われていた。
 一方で、何もサポートを行わなかった企業もみられたが、取引先を集めた情報交換の場がなくなったこと、取引先との間に卸業者が入るため顔の見えない関係となっていることなど、取引先とのコミュニケーション不足がその背景にあることをあげていた。
<中小企業>
 4社で、関連する大企業から情報提供等のサポートを、2009年の流行期に受けていた。企業によっては複数の取引先企業から情報提供を受けているが、『取引先のリスク意識によって内容や提供時期に差があった』と回答する企業もあった。流行期に情報提供を受けることが出来た要因として、『普段から、取引先と、要望やクレーム対応も含めた情報交換の機会があった』ことを挙げる企業もあった。

  2) サポートに関する双方の意見
<大企業>
 感染防止に関する情報提供に関しては、概ね流行期に中小企業に提供可能なサポートと捉えており、情報提供のためのルートも既に備わっているとする企業もあった。また、情報提供までが提供できるサポートの限界と考える企業もあった。
 他に提供可能なサポートとして、マスクやアルコール製剤等の衛生用品が入手困難になった際の支給サポートをあげる企業もあった。また、事業継続の観点から、生産計画のなるべく早期の提示や、緊急的な倉庫・材料費・輸送手段等の支援の可能性を示唆する企業もあった。
<中小企業>
 流行のなるべく早い段階に、大企業から感染予防に関する方針等の情報が提供されることを望む企業が多かった。情報の内容として、インフルエンザの特徴や企業内での感染防止に関することを要望する声もあった。その他、新型インフルエンザの行動計画や事業運営方針などについても、平常時から提供を受けておきたいという要望もあった。
 事業継続に関連するサポートとして、中小企業の経営努力でカバーできる範囲には限界があるため、材料費や輸送費への緊急融資等のコスト面へのサポートを望む声や、納期に関して中小企業側の要望も考慮する対応を望む声もあった。

3. 対策に関連した情報交換
  <大企業>
 概ね中小企業との情報交換に関して実施は可能と考えており、実際に2社で2009年の流行期に中小企業と感染防止に関する情報交換を行っていた。ただし、取引企業が海外にまで広がる中どのような情報交換を行うか、1次取引先までは対応可能だが2次・3次取引先とどのように情報交換を行うかということを情報交換に関する課題としてあげる企業もあった。
 BCPに関連する情報交換に関しては、実施している企業はなかった。対策本部としての方向性が定まっていないこと、情報交換をすることで大企業側に発生する責任を阻害要因としてあげる企業もあった。後者については、小売業で『想定数量を試算してメーカーに要求するとコストが発生する』と考える企業もあった。
<中小企業>
 概ね、流行期における大企業との情報交換の機会を望んでいた。情報交換の時期としては、なるべく流行早期にという意見が多くみられた。また、流行前から行動計画等の会社方針に関する情報を共有したいと考える企業もあった。提供を受けたい情報として、流行に対する会社方針や対応策のほか、インフルエンザの特徴や感染管理手法などが挙げられた。
 事業継続に関する情報として、事業運営に関する方針や生産計画の早めの提示を望む企業もあった。また、大企業側のニーズや方針が共有できない限り、中小企業単独でのBCPの検討は難しいという意見もあった。

4. 会社方針や一般的な感染予防策に関する情報提供
  <大企業>
 感染防止に関する会社方針や対応策に関しては肯定的な意見が多かったが、取引先への強制力をもつものではないこと、一般情報だけを提供した際に『その程度でよいのか』と先方に誤解される懸念もあることが課題として挙げられた。
 行動計画や事業計画についても可能な限り開示したいとする企業がある一方、踏み込んだ情報を提供することで、相手方が過剰反応することを懸念する企業もあった。
<中小企業>
 概ね、大企業からの方針や対応策に関する情報提供を希望していた。内容としては、構内入場に関するガイドラインや、インフルエンザの特徴等に関する専門的な知見を要望する声があった。

5. 要望内容
  <大企業>
 特に中小企業からの要望は聞いていないとする企業が多かった。
<中小企業>
 大企業からの具体的な指示を望む企業もある一方、具体的な指示を受けても対応できるかは分からないと考える企業もあった。また、大企業と取引のある中小企業の集会が開催されなくなった等、以前と比べて大企業との関係がドライになったため、情報交換の場がなくなったとする企業もあった。



考察
 
1. 新型インフルエンザ対策における大企業と中小企業の連携
  1) 事業継続計画(BCP)への取り組み
 大企業にとっては、サプライチェーンを構成する中小企業が欠けることによる事業継続への影響は非常に大きいものであるが、多くの企業でBCPの中で代替策の検討ができていなかった。代替策の検討が困難な理由として、海外も含めて多数の取引先があること、特殊な技能を要する業務であるため代替企業を見つけるのが容易でないこと、対策本部の中でサプライチェーン企業に対する方針が定まっていないことがあげられた。
 中小企業においては、独自のBCPを検討している企業はなかった。その理由の一つとして、大企業側のニーズや事業継続への方針が中小企業側に示されていないことがあげられた。

  2) 流行期における大企業からのサポート
 大企業の中では、感染防止の企業方針や対応策に関する情報提供に関しては、概ね実施可能と考えていた。一方で、あまり重要でない情報を提供することで、この程度の対策でよいのかという誤解を中小企業に与えることを懸念する声もあった。その他のサポートとして、生産計画の提示や材料費の融資等を検討する声もあったが、踏み込んだ情報を提示することによる取引先の過剰反応やコストが大企業に転嫁されることを懸念する声もあった。
 中小企業においては、大企業からの流行早期の情報提供を望む声が多かった。情報の内容については、インフルエンザの特徴等に関する専門的な知見や社内での感染拡大予防策を望む声もあった。その他、生産計画の早めの提示、流行期における納期の調整、材料費の緊急融資を望む声もあった。

2. 今後の課題
  1) 大企業からの情報発信
 感染防止に関する情報提供に関しては、大企業側は提供可能なサポートと捉えており、また、中小企業側からのニーズも高く、流行期においては大企業が関連する中小企業への重要な情報発信源となることが示唆された。
 期待される情報の内容としては、流行に対する会社方針や対応策が主になるが、インフルエンザの特徴等に関する専門的な意見、感染管理手技等に関する要望もあった。これらの情報は国レベルから発信されるべきものであるが、情報収集力が十分でないことの多い中小企業にとっては、大企業からの発信も重要な手段と考えられる。これらの一般的な感染防止に関する情報に関しては、大企業にとっての事業継続への優先度に寄らず、極力広い範囲の中小企業に発信されることが望まれる。
 情報発信を阻害する要因としては、①双方の信頼関係の構築、②グローバル・マルチカルチャーへの対応、③重要でない情報を提供することによる中小企業側の誤解等が考えられる。
①については、事業環境の変化により、大企業と中小企業の関係がドライになってきたと捉える中小企業もあり、対策に関する定期的な情報交換の場を平常時から設けておく等、双方の信頼関係の構築も必要と考えられる。
②については、取引先が海外にまで及ぶ場合や企業によって事業継続への優先度が異なる場合もあり、関係する全ての企業に均一な情報を提供することでは、有効な情報提供につながらない恐れがある。どこまでの範囲の企業にどのような内容の情報を提供するかを、予め大企業側として検討しておく必要もあると考えられる。
③については、流行期に構内入場のガイドライン等の断片的な情報を示すことで、中小企業側にこれだけの対応でよいのかという誤解を与えることも懸念される。誤解を生じないためにも、インフルエンザの病原性に関する情報提供、行動計画も含めた会社方針等の日頃からの共有、行動計画の中に上記ガイドラインの位置づけ等も併せて提供することが望まれる。

  2) BCPに関する大企業と中小企業の連携
 BCPに関しては大企業と中小企業で十分な連携が取れていない現状が示唆された。大企業側の阻害要因として、①連携を取ることで発生するコスト負担等の責任、②大企業側のサプライチェーン対策方針が定まっていないことが挙げられる。大企業側の方針の提示がなければ中小企業側での対策検討も困難であり、コスト負担も含めてどこまでのサポートを大企業側として行えるか、大企業側としてどこまでの対応を中小企業側に望むかを平時から伝えておく必要性があると考えられる。



結論
 
 今回の調査を通じて、流行期の感染予防策に関しては、大企業が中小企業にとって重要な情報発信源となりうることが分かった。一方で、BCPに関しては双方の連携が十分に取れていなかった。流行期に両者の連携が図れるよう、平時からの双方の信頼関係づくりに加え、どこまでの範囲にどのような情報を提供するかを大企業側で整理しておくこと、および、大企業側からのBCPに関する要求事項に関する情報提示が必要となると考えられた。



研究発表
 
1. 学会発表

職域における新型インフルエンザ対策の定着促進に関する研究(第6報)−サプライチェーン企業と大企業の連携に関するインタビュー調査−、今井鉄平, 高橋謙, 森晃爾,上原正道, 和田耕治, 森兼啓太, 丸山崇, 西埜植規秀, 宮村佳孝, 東敏昭 第84回日本産業衛生学会、東京、平成23年5月

文責:環境疫学研究室/