企業における新型インフルエンザ(A/H1N1)の対応に関する調査のレビュー
| 企業向け新型インフルエンザ対策研究
 
【研究課題】
 企業における新型インフルエンザ(A/H1N1)の対応に関する調査のレビュー

【研究分担者】
 和田耕治 北里大学医学部公衆衛生学・講師

【研究協力者】
 太田 寛
 阪口洋子
北里大学医学部公衆衛生学・助教
北里大学大学院医療系研究科

■ 本ページの目次 ■
  1.研究要旨
2.研究目的
3.研究方法
4.研究結果
5.考察
6.結論
7.参考文献


研究要旨
 
 2009年4月以降に新型インフルエンザ(A/H1N1)に対して企業は様々な対応を行った。こうしたなか様々な機関、業界団体、調査会社によってリアルタイムに加盟企業などに対する調査が行われた。本研究では、新型インフルエンザ(A/H1N1)確認後に企業を対象に行われた対策の国内外の調査をレビューすることで企業における今後の新型インフルエンザ対策に必要な課題などを明らかにすることを目的とした。
 2009年4月以降の新型インフルエンザ(A/H1N1)の対応に関する企業を対象にした調査をインターネット上などから入手し、レビューを行った。
 調査によって企業が対策を検討する上で参考になる他社の状況が明らかになることや、課題の共有が可能となるといった理由のため複数の調査が行われていた。調査で取り上げられた項目としては、対策の実施、事業への影響、情報収集の仕方などが多かった。
 基本的な感染対策は多くの企業で行われていたが、中小企業を対象にした調査では人手不足であったり、何をして良いかわからないという回答があった。有事の際は迅速な対応が求められるが、有事の前の普段からの準備が肝要である。しかしながら準備は企業のトップや社会の意識が高まらないと進めることが難しいため、意識を高めるような施策とともに行う必要がある。新型インフルエンザ(A/H1N1)による事業への影響があった事例としては、初期の流行の際の関西での学校閉鎖があげられた。特に客と頻繁に対面する事業や不特定多数が集まる場を提供する事業への影響は比較的大きいため、それらの企業においてはより充実した対策が普段から求められる。これらの結果は、新たな新型インフルエンザや他の感染症が流行した際にも同様に活用できるため、今回の対応を教訓としながら対応の実際を予め決めておくことで企業への影響をより小さくすることができる可能性がある。また、今後は企業がより対策を推進するために使用できる簡便なツールなどの開発が求められる。



研究目的
 
 2009年4月以降に新型インフルエンザ(A/H1N1)に対して企業は様々な対応を行った。こうしたなか様々な機関、業界団体、調査会社によってリアルタイムに加盟企業などに対する調査が行われた。本研究では、企業における新型インフルエンザ対策について流行の最中にリアルタイムで実施された国内外の調査をまとめることで今後の企業における課題などを明らかにすることを目的とした。



研究方法
 
 2009年4月以降の新型インフルエンザ(A/H1N1)の対応に関する企業を対象にした様々な調査をインターネット上などから入手し、レビューを行った。海外の調査についてはPubmedにて検索を行った。なお、一部には企業で働いている可能性のある一般市民を対象にした調査を含んだ。



研究結果

 調査によって企業が対策を検討する上で参考になる他社の状況が明らかになることや、課題の共有が可能となるといった理由のため複数の調査が行われていた。一部の少数の企業などを対象にした調査を除き、国内で行われた18件の調査結果が得られた。時期別に、I.流行初期(2009年4月から5月末まで)、II.国内での流行が始まりピークになる前まで(2009年6月から10月末まで)、III.国内での流行がピークとなって以降(2009年11月以降)、IV.全体を通じて、としそれぞれの要点をまとめた。

I. 新型インフルエンザ(A/H1N1)の流行初期における調査(2009年4月から5月末まで)
  1) JETROマニラ1
 4月29日にフィリピン進出日系企業を対象に電子メールで緊急アンケートを行い、33社が回答した。
 3社は米国・メキシコへの出張制限などの影響があると回答したが、その他は特に米国・メキシコとの取引には影響はないと回答した。
この段階で講じている対策で最も行われていた対策は、感染国への渡航禁止・自粛(12社)、消毒薬・マスクの手配・うがいなどの指導(11社)、タミフル・水・食料などの備蓄(7社)、情報収集・提供(6社)であった。

  2) 人と防災未来センター2
 2009年5月に兵庫県や大阪府で国内における地域での感染事例が特定されて(5月16日)1週間後の5月23日、24日に2,517人の神戸市の一般市民を対象に電話による調査を行い、500人から回答を得た。対象者の55%が不安を感じる(とても不安、少し不安)と回答した。予防行動については、9割が外出後の手洗いを実践し、うがいやマスクの着用も8割が実践していた。一方で「いつもより体温を測るようにしている」は2割であった。
 マスクの着用に関しては、自分への感染予防効果に否定的という認識は4割弱であったのに対し、本来咳エチケットとして強調されている他人への感染予防効果に肯定的な者は2割にとどまっていた。一方で「マスクは皆がつけるべきである」と回答した人は5割程度いた。
 新型インフルエンザによる学校や保育園などの休校で影響を受けたと約4割が回答した。

  3) 姫路商工会議所3
 姫路商工会議所管内の企業6,205事業所を対象にし、1,113事業所(18%)より回答を得た。調査は、5月20日から26日に行われた。新型インフルエンザによる事業への影響があったと回答したのは企業全体の42%で、特に教育・学習支援業(100%)、飲食・宿泊業(89.8%)、小売業(61.5%)、医療・福祉業(61.1%)が影響を受けた。
 「新型インフルエンザ発生の影響により生産・販売額が減少した」と回答した事業所は、296事業所(28%)で、主な要因として、「各イベント・宿泊客のキャンセル(35件)」、「外出自粛による消費活動の低下(96件)」、「学校の休校による影響(29件)」、「風評被害による影響(8件)」等が減少要因として挙げられた。
 「新型インフルエンザへの対応に関する行政への要望等について」では、「過剰な反応はやめてほしい(91件)」、「情報を迅速に提供して欲しい(50件)」、「マスク等の配布を積極的に行ってほしい(25件)」等の意見が寄せられたほか、「一般企業の事をもっと考えて、休校や行事中止等を判断してほしい」、「インフルエンザの予防と不安感をやわらげてほしい」、「地域経済への悪影響が気になる」、「育児休暇等企業の対応はやむをえないが、それに対する行政の手助けが欲しい」などの意見が挙げられた。
 インフルエンザ対策を事前に策定していたのは67%であった。対策として最も行われていたのは、マスク着用・うがい・手洗いの実施(34%)、衛生用品の配布(24%)であった。

  4) 日本マーケティングリサーチ協会4
 5月21日から26日に電子メールにて日本マーケティングリサーチ協会の正会員社145社を対象に調査を行い、56社から回答を得た。
 企業として情報を得る場(複数回答可)はテレビ・新聞が最も多く(98%)、インターネット(75%)、行政機関(41%)であった。
 社員に対する対策として行っているもので最も多かったのは、社員への企業の対応説明(71%)、情報収集・提供(63%)、従業員の健康状態の確認(52%)であった。

II. 新型インフルエンザA(H1N1)の国内での流行が始まりピークになる前までにおける調査(2009年6月から10月末まで)
  1) 日本経済団体連合会5
 6月から7月10日に日本経済団体連合会・東京都経営者協会会員企業2,025社を対象に調査票を郵送し、454社が回答した。回答した企業の50%は製造業、16%がサービス業であった。60%の企業は1,000人以上であった。
 現在実施中の対策として、1.マスクや手袋など衛生用品、食料の備蓄(83%)、2.新型インフルエンザ関連の情報収集・連絡体制の整備(82%)、職場における感染予防・感染拡大防止策の策定(79%)、新型インフルエンザ対策の検討委員会・危機管理組織等の整備(67%)であった。
 今後1年間で重点的に取り組む予定の新型インフルエンザ対策では、1.継続業務の絞り込み・業務継続体制の整備(46%)、2.発生時対応訓練の実施(27%)、3.職場における感染予防・感染拡大防止策の策定(18%)であった。
 新型インフルエンザに対応する社内マニュアル(感染予防や拡大防止に向けた手引き)の有無については6月1日現在であると回答したのは60%であった。今後の策定予定については2009年9月末まで14%、2009年度内11%であった。具体的策定予定なしは14%であった。
 また、6月1日現在で事業継続計画があると回答した企業は32%であった。今後の策定予定としては9月末まで19%、年度内24%であった。具体的策定予定なしは21%であった。事業継続計画の有無について業種別で「ある」と回答した企業が多かったのは、電気・ガス・水道業67%、金融保険業62%、運輸・通信業38%であった。
 新型インフルエンザ対策をより良いものとする、あるいは対策に着手する上で重要な事項(3つまで選択)については、1.政府・自治体の新型インフルエンザ対策についての情報(51%)、2.パンデミックワクチンの早期接種のための環境整備(45%)、3.抗インフルエンザウイルス薬の国家備蓄の促進(38%)、4.プレパンデミックワクチンの備蓄拡大と接種対象者の拡大(28%)の割合が多かった。

  2) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング6
 2009年6月8日から30日に中小企業向けの会員企業427社から回答を得た。対象企業の48%が100名以下、30%が300名以下であった。また所在地は関東地区が約半数であった。
 新型インフルエンザ(A/H1N1)による事業への影響については顕著なマイナス影響がでているは3%で、関西地区だけでみると5%とやや高かった。最も多いのは特に影響は出ていないで66%であった。
 社内で行った対策としては、マスク配布、着用義務づけ(56%)、出張や国内外旅行の自粛・禁止申し入れ(46%)、発熱した社員の出社禁止(42%)であった。対策チームの結成は23%の企業で行われていた。社員教育を実施したのは44%であったが、予定はないは29%であった。
 事業継続計画の作成状況についてはすでに作成した企業は12%、本年度中に作成する予定は12%であった。しかし、最も多かったのは、予定はないの39%であった。
 新型インフルエンザ対策を行う上で障害となることでは、人手・時間不足33%、具体的に何をすべきかわからない29%であったが、34%はとくに障害はないと回答した。

  3) 東京経営者協会7
 2009年6月24日から7月17日に東京経営者協会会員企業1,210社を対象に調査票を郵送し、237社が回答した。
 事前の取り組みとしては、備蓄品の調達(72%)、社員の意識啓発(65%)、新型インフルエンザ対応体制・意思決定のプロセス構築(50%)であった。
 感染拡大後の対応として、マスクの配布着用(87%)、情報収集(82%)、消毒液の設置(74%)、海外出張の自粛(67%)であった。
 対策の開始時期は、メキシコ、アメリカ、カナダで発生した時(44%)、WHOがフェーズ4を宣言した時(22%)、WHOがフェーズ5を宣言した時、神戸で国内感染者が発見された時がともに12%であった。
 情報収集は新聞雑誌(84%)、インターネット(82%)、テレビ・ラジオ (80%)であった。

  4) レスキューナウ8
 6月18日から23日に131社を対象に調査を行った。昼間仕事中に本人の発熱、体調不良があった場合にどの時点で医療機関に受診しているかについては、89%の企業が「仕事を休ませ、すぐに病院を受診させるため退社を指示する」と回答した。また、職員の感染において医療機関の診断書の提出については従業員の感染で必須とする企業が(16%)、推奨(11%)であった。そのうち特にサービス業で必須または推奨とする企業が多かった。

  5) 神戸商工会議所9
 6月15日から18日の調査で、新型インフルエンザの発生が企業活動に何らかの影響があったと回答した神戸商工会議事務所267社対象に調査を行い199社が回答(回答率75%)した。
 神戸市内において感染患者が特定された5月16日から30日と安心宣言などが出されて状況が落ち着きつつある期間(6月1日から15日)と比べ、どの程度回復したかを問うた。売り上げは、全く回復していないと回答した企業が9%、20%未満と回答した企業が14%であった。また、100%回復したが18%であった。飲食業では100%回復したが22%と他業種よりも高いとする企業が多かった。
 客数・利用者数は、60%以上回復がもっとも多く26%であったが、20%未満が14%、または全く回復していない7%であった。

  6) 労務行政研究所10
 7月22日から8月8日が人事労務情報サイトに登録している民間企業から抽出した人事労務担当者4,263人を対象に調査をし、360人から回答を得た。回答した企業のうち大企業では27%が備蓄していた。
 実施している対策では、出社時や外出先から帰社時の手洗い(94%)、通勤・外出時のマスク着用(85%)、海外出張の自粛(73%)であった。
 労働者が感染した際の自宅待機においては、33%が賃金を通常通り支払うと回答したが、賃金や休業手当は支払わないと22%が回答した。
 同居家族の感染の場合の自宅待機は、大企業では43%が保健所から指導があればするとしたが、34%は保健所の判断を待たず原則として自宅待機とすると回答した。その際の労働者の賃金については51%が通常通り支払うと回答したが、15%は賃金や休業手当などは一切支払わないと回答した。
 病原性の高いインフルエンザが流行した場合に、通勤混雑で従業員が感染するリスクを低減するための対策で、従業員に指示しようと考えている項目は、1.大幅な時差出勤(44%)、2.自家用車や自転車の利用等通勤手段の変更(31%)、3.自宅待機(27%)であった。

  7) 帝国データバンク11
 9月16日から30日に全国約2万社を対象に新型インフルエンザに対する企業の動向調査を行った。有効回答企業数は10,890(回答率51%)であった。
 新型インフルエンザに流行に危機感を抱いているについて高い(かなり高い、高い、やや高い)と回答したのは、規模別で大企業では55%、中小企業では44%であった。業界別で危機感があると回答した企業が多かったのは、サービス業(58%)、運輸・倉庫(58%)、金融(54%)、小売(53%)であった。
 7月以降の対策の実施状況を規模別にみると、大企業では82%(2,263社)であったが、中小企業では70%(5,690社)と12%の差があり、大企業での実施率の高さが目立つ。業界別では、運輸・倉庫が同83%(330社)で8割超となり最も多かった。
 実施している新型インフルエンザ対策では、「マスクや手袋など衛生用品・食料の備蓄」が1万890社中4,999社(46%)となり最も多かった。次いで、「社員・職員に対する新型インフルエンザの教育・啓発」(39%、4,275社)、「新型インフルエンザ関連の情報収集・連絡体制の整備」(38%、4,137社)、「職場における感染予防・感染拡大防止策の策定」(38%、4,083社)と続き、いずれも3割以上の企業で実施していた。「衛生用品・食料の備蓄」は2009年春の感染時においても36.8%(4,008社)と最も多くの企業が実施していた。また、「教育・啓蒙」や「感染予防・感染拡大防止策の策定」、「職場の清掃・消毒」は春の時点(それぞれ、27%、2,973社、26%、2,827社、17%、1,894社)と比較して、対策を実施している企業の割合が10%以上増加した。      
 従業員に向けた対策として、7月以降では「手洗い用の消毒液等の設置」が52%(5,630社)と半数を超える企業で実施されていた。次いで、「咳エチケットの励行」(34%、3,689社)、「本人または家族が罹患したときの出勤制限」(30%、3,296社)、「マスクの着用」(30%、3,223社)が高かった。2009年春時点と比べると、「消毒液等の設置」が33%(3,587社)から19%増、「罹患したときの出勤制限」が16%(1,780社)から14%増と、実施企業が大幅に拡大していた。一方、「海外指定地域への出張制限」や「国内指定地域への出張制限」は、2009年春時点(それぞれ、9%、951社、8%、819社)から実施企業が減少していた。             
 自社の従業員が新型インフルエンザに罹患した場合、業績に影響があるかを尋ねたところ、「影響がある」と回答した企業は1万890社中6,134社、構成比56%となり、6割近くの企業が業績に影響が出てくると考えていた。一方、「影響はない」は14%(1,547社)であった。
 「影響がある」との回答を規模別にみると、大企業が52%(1,423社)であったのに対し、中小企業は58%(4,711社)となり、中小企業が大企業を6.5%上回った。限られた人員で業務を行っている中小企業ほど、従業員が新型インフルエンザに罹患したときの影響を懸念していると考えられた。業界別では、サービスが65%(969社)で最も多く、次いで運輸・倉庫(64.5%、258社)、小売(61%、289社)が続き、いずれも6割を超えた。
 社会全体で新型インフルエンザの感染が拡大した場合、業績にどのような影響があるか尋ねたところ、「悪影響」と回答した企業は1万890社中6,045社、構成比56%となり過半数の企業が感染の拡大が自社の業績に悪影響を及ぼすと考えている。また、「影響はない」が12%(1,339社)と1割超であった一方、「好影響」は1%(127社)にとどまった。
 「消費者向けはネット販売なので、在宅率が上がれば売り上げも上がる」(家庭用電気機器卸売、東京都)や「結果的に内食が増えることにつながる」(食品製造、宮崎県)、「他社と比べて対策を十分取っているので、当社に顧客が流れるチャンスもある」(機械メンテナンス、福岡県)などの意見もみられた。
 新型インフルエンザ対策を実施するうえで最も障害となっていることを尋ねたところ、1万890社中3,393社、構成比31%が「特に障害はない」と回答した。しかし、「人手・時間の不足」と回答した企業が同23%(2,456社)と2割を超えているほか、「社内の認識不足」(11%、1,174社)も1割程度の企業が対策実施上の障害になると認識していた。また、「具体的に何をすべきか分からない」が18%(1,911社)と2割近くに達した。

  8) 三井住友海上火災保険株式会社、インターリスク総研12
 7月から8月に上場企業3,807社対象にし、772社(20.3%)から回答を得た。
 実施している対策については、衛生資材の備蓄(95%)、社員への啓発(91%)、新型インフルエンザに関する情報収集体制作り(58%)、産業医等から医学上の助言を受ける体制作り(39%)であった。
 新型インフルエンザ(A/H1N1)の対応として実施した項目で発熱時の出社禁止(75%)、咳エチケットの徹底(73%)、執務中のマスク着用(32%)であった。
 新型インフルエンザの大流行に向けて対策を立てるにあたり、課題や問題になっていることは、発生時のインフルエンザの病原性の高い・低いそれぞれの対応方法の違いが不明(48%)、事業縮小、中断のタイミングがわからない(41%)であった。
 新型インフルエンザ(A/H1N1)の対策を開始したのは、WHOが緊急対策委員会を開催した時点(22%)、WHOがフェーズ4を宣言した時点(26%)、WHOがフェーズ5を宣言した時点(10%)、国内で新型インフルエンザ感染者が確認された時点(16%)であった。
 対策の解除について(8月6日現在)は、1.大阪、兵庫全域で休校措置を解除した時点(15%)、2.一般医療機関で受診が可能になった時点(13%)、3.他者の動向に合わせた(19%)で、対策を解除していない(42%)がほとんどであった。

III. 新型インフルエンザ(A/H1N1)の国内での流行がピークとなって以降における調査(2009年11月以降)
  1) 大阪市信用金庫13
 12月中旬に取引先の中小企業1,370社を対象にし、1,320社から回答を得た。
 この段階で感染者が社員本人や家族に感染があったと回答した企業は28%であった。そのなかで業務への大きな支障があったと回答したのは全体の4%、ある程度の支障があったは、41%であった。業種別では小売業の11%が大きな支障があったと回答した。
 社員が感染した場合の対応については、「速やかな報告や自宅待機等を規則で義務づけている(12%)」、「規則は定めていないが報告や自宅待機を指導する(49%)」、「本人の常識に任せている(40%)」であった。「速やかな報告や自宅待機等を規則で義務づけている」は小売業で最も多く(18%)、運輸業で最も少なかった(8%)。
 ワクチン接種については、「全員に推奨して進捗状況を管理する(40%)」、「一応推奨するが本人に任せ管理はしない(48%)」、「必要性を特に感じず一切関知しない(13%)」であった。特に小売業では「全員に推奨して進捗状況を管理する」は57%と他業種よりも高かった。

IV. 全体の期間を通じて
  1) 沖縄振興開発金融公庫14
 2009年4月から2010年3月までの新型インフルエンザの沖縄県の景況におよぼす影響について約400社を対象に複数の調査を行い、84から89%の回答率を得た。飲食店・宿泊業は特に影響が大きかったが、業績が悪化したと回答した企業の割合は、流行の始まった4月から6月において54%、流行の最初のピークを全国で初めて迎えた期間を含む7月から9月では69%、全国が流行のピークを迎えた期間を含む10月から12月で68%であった。建設業や情報通信業などはすべての期間において影響はほとんどなかったとしている。

  2) 国土交通政策研究所(その1)15
 12月4日から8日にインターネット調査を行い2,000人から回答を得た。
 5月に新型インフルエンザの発生が報じられた当初、通勤で公共交通機関を利用する際に行った行動については、勤務先での手洗いやうがい(81%)、乗車中のマスクの着用(60%)、マスクの外出時の常時着用(48%)であったが、通勤混雑の緩和につながるような時差出勤などをした人は全体の16%であった。
 今後毒性の強いインフルエンザが流行した際に通勤時の混雑を避けたいとした人は、全体の68%であった。また、混雑回避のために行いたいこととして、出勤する時間を変更したい(53%)、出勤を控えたいが(34%)であった。しかし、このような対応に自主的に判断すると回答したのは20%で8割は会社からの指示や勧めを必要すると回答した。

  3) 国土交通政策研究所(その2)16
 2010年2月16日から3月5日に大阪市内に所在する大阪商工会議所加盟事業所3,153社を対象に調査し1,100社から回答を得た。
 新型インフルエンザ(A/H1N1)発生当初に従業員に対して指示(推奨)した内容としては、手洗いの徹底(87%)、外出時のマスク常時着用(56%)、職場の清掃・消毒の徹底(40%)であった。
 病原性の強い新型インフルエンザ流行時に従業員に指示(推奨)する対策としては、大幅な時差出勤(44%)、自家用車や自転車の利用等通勤手段の変更(31%)、自宅待機(27%)、どれも指示(推奨)する考えはない(26%)であった。

V.諸外国の文献
 諸外国の企業に関する文献については2つしか該当したものは見つけられなかった。Smithら17は、新型インフルエンザ(A/H1N1)流行前に米国のネブラスカ州オマハにある企業を対象に調査を行った。その中で企業(n=73)において必要な情報について次のことがあげられた。
 1. 感染した患者はいつ職場復帰できるか(68%)
 2. 感染した労働者の隔離(59%)
 3. 職場におけるマスクとグローブの使用(58%)
 4. 流行時の出張(56%)
 5. 職場における感染対策(55%)
 6. 環境の清掃(53%)
であった。
 Watkinsら18は、オーストラリアの中小企業を対象に新型インフルエンザ(A/H1N1)流行前に中小企業201社を対象に調査を行った。2007年の段階で中小企業の6%はなんらからの計画を策定していたが、39%が新型インフルエンザについてはなにも考慮していなかった。



考察
 
I. 新型インフルエンザ(A/H1N1)の流行初期における調査(2009年4月から5月末まで)
 調査は4件があった。4月29日の段階では今後の状況も不明であったが、マニラの日系企業において対策を行っていない企業が42%であった。海外進出を行っている企業の事業所では今後も自主的に対策に取り組むことが期待される。
 2009年5月16日に兵庫県、大阪府で国内最初の地域での感染事例が確認され、学校一斉休業などが行われた。それらが地域の企業に与える影響は大きかった。特に、修学旅行などのキャンセルなどが相次ぎ観光業には経済的にも大きな影響があった。予防行動については、メディアや企業からの指導により様々な行動が実践されたようである。情報の収集はメディアやインターネットが多いようであるが、情報も不確かな中では情報の一部に食い違いが存在したりして不安になる職員も多い。正しい情報の確保はもちろんであるが、こうした時期においても企業は事業を続ける必要があるため、不安を抱えた職員への対応の具体的な対策も今後検討が必要である。

II. 新型インフルエンザA(H1N1)の国内での流行が始まりピークになる前までにおける調査(2009年6月から10月末まで)
 9件の調査があった。この時期は、関西地区での流行が確認された後で、病原体の特徴も明らかになり社会への影響がそれほど大きくないことが示され、企業にとっても安心感の広がった時期であった。
 調査項目としては、次のように分類された。

  1) 実施している対策
 行っている対策として大企業ではマスクや手袋の備蓄や、情報収集、連絡体制、職場における感染防止策の徹底は約8割が行っていた。社内マニュアルの整備は約6割程度であり、今後準備として基本的な対応について示したものを作成することが求められる企業は多い。
 しかしながら中小企業向けの調査では、実施割合はやや低率であり、教育についても約半数に満たない程度の実施であった。その背景としては人手不足や何をすべきかわからないということもあり、今後は準備段階においてわかりやすいツールの提供や、実際の流行時に迅速にすべきことを情報提供できるようにすることが今後求められる。

  2) 事業への影響
 関西地区では事業の影響は業種によって(飲食業など)は大きな影響を受けたが、全体でみると特に大きな影響がなかったとする回答が多かった。

  3) 事業継続計画の作成
 事業継続計画については作成しているという大企業は3割程度であり、今後の作成の計画としては4割程度があると回答した。

  4) 行政などに求めること
 情報はもちろんであるが、プレパンデミックワクチンや抗インフルエンザウイルス薬があげられた。しかし企業において感染するリスクなどを考えるとこれらの回答の背景にはやや過剰なまでの医療技術に対する期待があるようにも思われる。企業におけるワクチンや抗インフルエンザウイルス薬の効果と限界についても分かりやすく伝えていく必要がある。

  5) 情報収集と意思決定
 情報収集については新聞雑誌、インターネット、テレビ・ラジオが8割以上を占めた。しかしながら、企業における対策についてより詳細に報じているかについては課題もあり、今後効果的な情報提供ができる体制作りが求められる。
 情報収集は企業における様々な意思決定のために行われるが、病原性に応じた対応の変え方や、事業の縮小や中断のタイミングがわからないといった回答もあった。意思決定を支援するようなツールについても今後開発が必要である。

  6) 診断書の取り扱い
 企業においては職員の感染や治癒について医療機関の診断書を求める傾向があり、必須と推奨を合わせると3割程度の企業が求めていた。しかしながら、まん延期の医療機関への負担を考えると診断書を要求しないようにすることが企業に求められる。またサービス業がやや求めている企業が多かったが、顧客への影響を心配してのことであったと予想される。今後は、こうした懸念に対しても解決策を提示することが求められる。

  7) 休業中の賃金
 休業中の賃金の扱いについては本人が休んだ場合の他に、家族が感染した際に休んだ場合の取り扱いなどが課題となった。企業における感染対策として重要なことの1つに感染している従業員を休ませるということがあり、休業中の賃金や雇用が保障されないと無理して職場にでてくる可能性がある。こうしたことが結果的に感染を拡大させることになるため、普段から従業員に対して方針を具体的に示しておくことが求められる。

III. 新型インフルエンザA(H1N1)の国内での流行がピークとなって以降における調査(2009年11月以降)
 1件の調査があった。2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)は北海道や関東などで11月の後半にはピークを迎えた。
 12月中旬では約3割の企業において感染者が確認されていた。中小企業の小売業の1割程度は大きな支障があったと回答していた。また、4割の企業は社員が感染した場合の対応は本人の常識に任していると回答しており、安心して休みが取れるような体制を作ることが求められる。
 なお、この時期になると感染の状況もわかってきたこともあり調査は減っていた。

IV. 全体の期間を通じて
 事業への影響については対面での対応が求められる事業への影響が大きいようである。
 さらに今後インフルエンザで病原性の高いものが流行した際には満員電車が不安の対象であり、時差出勤などをしたいという回答が約3から5割あった。企業おいては可能な範囲で配慮をすることが求められるが、いずれにせよ企業や社会には感染した症状があれば満員電車や外出を控えるといった他人にうつさないための対策の推進が求められる。

V. 諸外国の文献
 諸外国の文献についてはPubmedにて検索を行ったが、2件のみが見つかった。医療機関に関する論文が複数あったが、企業におけるインフルエンザ対策に関する論文は少なかった。今後出版される可能性もあり継続して確認する必要がある。



結論
 
 本研究では新型インフルエンザ(A/H1N1)の流行の際にリアルタイムで行われた様々な調査をレビューし、今後のための企業における新型インフルエンザ対策の課題について検討した。企業において課題となることは共通であり、これらについて迅速に情報を示すだけでも現場の負担が減り、さらに、対策の推進や事業の継続が期待できるようになる。
 また有事の際だけでなく事前の準備を行うことが求められるが、なかなか対策として進まないのが現状であるため、企業のトップや社会の意識を高めることも同時に行いながら進めることが必要である。特に客と頻繁に対面する事業や不特定多数が集まる場を提供する事業への影響はあるためそれらの企業においてはより充実した対策が求められる。
 本調査で明らかとなった共通の課題についてさらなる構築を進めるためのツールを提供すると対策の一助になると思われる。また人材不足の中小企業を考慮したものであることが望ましい。



参考文献
 
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文責:環境疫学研究室/