企業の新型インフルエンザ対策に関するインタビュー調査(BCP事例集)
| 企業向け新型インフルエンザ対策研究
 
【研究課題】
 企業の新型インフルエンザ対策に関するインタビュー調査(BCP事例集)

【研究分担者】
 森 晃爾
 森兼啓太
 今井鉄平
産業医科大学・副学長(産業医実務研修センター・教授)
山形大学医学部付属病院検査部・准教授
産業医科大学産業生態科学研究所・環境疫学研究室・非常勤講師

■ 本ページの目次 ■
  1.研究要旨
2.研究目的
3.研究方法
4.研究結果
5.考察
6.結論


研究要旨
 
 新型インフルエンザ対策として今後企業が取るべき対応や行政上の支援のあり方を検討することを目的として、大企業で策定された(Business Continuity Plan;以下BCP)の経緯や内容、2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)の流行への対応および経験を通じて明らかとなった課題等に関するインタビュー調査を行った。
 新型インフルエンザに関する質問票調査で新型インフルエンザ対策BCPを策定していることが明らかとなった企業の中から協力が得られた18の企業を対象とした。インタビューの内容は、新型インフルエンザ(A/H1N1)の発生前から発生後に、事前計画(P)・対策実施(D)・課題(C)・追加準備(A)のPDCAサイクルからなる時系列を基本とし、それぞれの段階における詳細内容を聴取した。
 その結果、今回聴取した企業においては、平時からの対策として、多くの企業が国のガイドラインや業界団体などのネットワークからの情報を参考に危機管理対策の一部として新型インフルエンザ対策BCPを策定するとともに、感染状況に応じ企業トップを責任者とする対策本部の立ち上げが出来る準備を行っていた。また、新型インフルエンザ(A/H1N1)の発生においては、低病原性であったため事業継続に影響なく、予防対策と企業内への情報提供を中心に迅速に対応していた。しかし、中小企業を含むサプライチェーンを含めた対策は不十分であるなど、今後の高病原性の新型インフルエンザへの備えとしていくつかの課題が明らかになった。
 今後、行政、業界団体、企業が役割を再検討し、より有効な対策がとれるような仕組みづくりを継続していく必要があるとともに、感染症に対する危機管理意識を持続していくことが課題である。



研究目的
 
 新型インフルエンザ対策として多く企業で事業継続プラン(Business Continuity Plan;以下BCP)が策定された。2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)の流行は、これらの企業にとってBCP策定後または策定中に発生したことになった。今後企業が取るべき対応や行政上の支援のあり方を検討することを目的として、策定されたBCPの経緯や内容、新型インフルエンザ(A/H1N1)への対応、および経験を通じて明らかとなった課題や今後の準備について大企業向けインタビュー調査を行った。



研究方法
 
 別の分担研究として、全国1010の企業(大企業731、中小企業279)に対して実施された新型インフルエンザに関する質問票調査で、新型インフルエンザ対策BCPを作成していると返答のあった企業を、インタビュー調査の候補とした。その中から、幅広い業種を対象に産業医のネットワーク等を活用して依頼を行い、協力が得られた18の企業に対してインタビュー調査を行った。
 インタビューで聴取すべき項目は、各分担研究者および研究協力者の議論をもとに作成した。具体的には、インタビュー検討段階で新型インフルエンザ(A/H1N1))が発生したため、同新型インフルエンザ対応のPlan-Do-Check-Act(PDCAサイクル)からなる時系列をもとにした大項目(事前計画(P)・対策実施(D)・課題(C)・追加準備(A))を基本として、それぞれについて小項目と小項目ごとにインタビュー時に確認すべきポイントから構成した。大項目ごとの小項目は以下のとおりである。また、ポイントを含むインタビュー項目の詳細は、【資料1のダウンロード】として提示した。
  ●事前計画内容(Plan)
    1. BCP体系
2. BCP策定条件
3. 基本方針
4. 危機管理組織
5. 情報収集体制
6. 感染リスク評価
7. 感染管理
8. 緊急連絡体制について
9. 事業継続
10. 訓練
11. 改善
12. その他
  ● 新型インフルエンザ(A/H1N1)に対して実際に行った対策(Do)
    13. 対策内容
  ● 新型インフルエンザ流行を通じて浮上した課題(Check)
    14. 課題
  ● 今後の流行に向けての準備(Act)
    15. 準備内容
 インタビューは、研究者(研究協力者も含む)1名以上で行い、インタビュー対象者は新型インフルエンザ対策BCP担当者および産業医とし、産業医が十分な情報を有していると判断した企業において例外的に産業医のみからの聴取とした。インタビューの所要時間は1時間から1時間30分であった。



研究結果
 
 各企業におけるインタビュー結果の詳細は、【資料2のダウンロードpdfファイル EXCELファイル】に示すとおりである。
 
1.策定経緯
  1) 時期
企業によっては、平成21年4月以前にすでにH5N1を想定した新型インフルエンザ対策BCPを策定していた企業があったが、それらの策定中に新型インフルエンザ(A/H1N1)が発生したため策定スピードを速めた企業も存在した。
 
  2) 行政や業界団体等の関わり
ライフラインを構成する業界や医療関係の業界では、指導官庁からの指導や業界団体でのガイドラインの策定などにより、BCP策定の推進がなされていた。このような業界以外においても、業界団体やその他のネットワークにおいて、構成する企業間の情報交換が行われていた。
 
  3) 策定条件
平成21年4月以前の段階においては、ほとんどの企業において「事業所・企業における新型インフルエンザ対策ガイドライン」(関係省庁連絡会議)が参考にされており、25%の感染者と40%の休業者を基本的な策定条件としていた。
 
2.新型インフルエンザ対策BCPの位置づけ
  多くの企業において既に地震対策用のBCPが存在しており、並列したBCPとして新型インフルエンザ対策BCPを位置づけていた。また、その中には危機管理に関する全体的な規定があり、その下位文書としてこれらBCPが位置づけられている構造を持っている企業もあった。さらに、一つの企業の製造事業所では、新型インフルエンザ対応の規定を労働安全衛生マネジメントシステムの危機管理に関連する下位文書として位置づけることによって、定期的に評価・改善の検討を図っている例があった。
 
3.BCPの内容
  1) 基本方針
ほとんどの企業で、従業員の安全・健康への配慮に関する方針と、事業に関する方針の二つを挙げていた。このうち前者については、従業員の安全・健康や生命の保護を最優先することを第一としていた。一方、事業については、パンデミック発生時に事業を止めることを前提にする場合と、可能な限り事業継続をして社会的機能を果たすことを明確にする場合に分けられた。この違いは業種によって、社会的な機能が異なることに由来していると考えられた。
 
  2) 危機管理組織
名称は企業によって異なるが、多くの企業で、基本的には平時において機能する危機管理対策の検討組織と、危機発生時の本部組織が存在していた。平時の組織および危機発生時の組織とも、社長等の経営トップが議長(委員長)となり、関連する部署の責任者がメンバーと参加していた。また、医学的判断が重要と考えられることより、産業医がメンバーとして貢献している例が多数認められた。
 
  3) 情報収集
情報収集は、発生情報や公的なガイドラインなど対策立案や判断に関わる情報と、従業員や家族などの感染者発生情報に分けられる。

(1) 対策立案や判断に関わる情報
主に国内の公的機関のホームページから情報収集していた。また、産業医が情報収集の中心となっている企業では、米国疾病予防管理センター(CDC)の情報を参考にしている場合が多かった。また、これらの情報を解釈する上で専門家が私的に解説しているホームページなどが価値のある情報であったとする企業もあった。

(2) 感染者発生情報
ほとんどの企業で、従業員および家族の感染者に関わる情報を収集していた。これらの情報は、職場の管理者が産業保健部門や人事部門に報告し、集計されていた。集計結果は、新型インフルエンザ対策本部で共有するほか、イントラネット等を通じて従業員に提供されている企業も多かった。
 
  4) 予防対策
(1) 従業員教育
社内報や健康管理ニュースなどを活用して、新型インフルエンザに関する教育を行っている企業が多かった。独自に教育冊子を作成したり、冊子にマスクを数枚含めるなど啓発に努力する企業があり、さらには全従業員に対して集合教育を行った企業もあった。

(2) 感染予防
感染者予防を図るためのルールとしては、出勤前後の体温測定、入室時の手洗い、必要な場合にマスク着用などが基本となっていた。また、食堂をグループで分けるなどの対策を採っている企業もあった。

(3) 備蓄
ほとんどの企業で不織布マスクと消毒用アルコールが一定数備蓄されていた。2ヶ月間など期間を元に計算された備蓄量が確保されている場合があったが、予算の範囲での備蓄という企業もあった。
その他、感染ハイリスクの業務に従事する従業員用にN95マスク、保護衣、ゴーグルなどの備蓄している企業があった。
タミフルの備蓄を行っている企業は少なくなかったが、その量や事実自体について公表できないとする企業があった。

(4) 海外赴任者
海外赴任者の帰国支援やタミフルの配布など、特別な対応策を決めている企業があった。
 
  5) 緊急連絡体制
ほとんどの企業において、通常の緊急連絡網が構築されており、その活用が基本となっていた。新型インフルエンザについても震災発生時と同様の安否確認システムの利用を準備している企業もあった。
 
  6) 事業継続
(1) 重要業務の洗い出し
各企業で基本方針に照らし合わして、事業継続が必要な業務が明確になっていた。重要業務の洗い出しは企業全体の基本的な方針に基づき、各部門で行われることが一般的であった。
複数の事業を行っている企業では、事業によって事業継続の要否が大きく異なっている場合があった。

(2) 出勤・出勤制限
業務の制限としては、大きなイベントや会議の制限などが規定されている企業が多かった。
従業員については発熱時の欠勤を指導していた。同居家族が感染した場合にも、何らかの出勤制限を基本としていたが、新型インフルエンザ(A/H1N1)の病原性によって出勤制限を解除した企業が多かった。企業側の指示で欠勤する場合には特別有給休暇等の扱いとしており、企業によっては欠勤扱いとせずに在宅勤務扱いとする場合もあった。

(3) 発動の判断
事業停止等の発動条件としては、国内発生等の時期を基本として定めておき、実際の発動は社長等の意思決定者としている企業が一般的であった。感染発生状況の地域差などを考え、事業所ごとの責任で事業停止を行うことになっている企業もあった。

(4) サプライチェーン
多くの企業で事業継続を行う上で、連携が必要なサプライチェーンを抱えていた。サプライチェーンを構成する企業がグループ会社である場合には、共通した事業継続計画に含めることを基本としていたが、それ以外ではサプライチェーンを構成する企業への検討依頼の範囲に留まっており、十分な対応がなされているとは言えなかった。
 
  7) 訓練
サプライチェーンの機能に関するシミュレーションや、危機管理組織メンバーや各事業責任者が参加してのテーブルトップドリルを行った企業があったが、これらは例外的であり、ほとんどの企業で訓練が行われないまま新型インフルエンザ(A/H1N1)が発生していた。
 
  8) 改善の仕組み
年に1回程度、見直しを行うことを明確にしている企業があったが、多くの企業で必要に応じて検討するとしていた。
 
4.対策の実施
  1) BCPの発動
新型インフルエンザ(A/H1N1)に対して、BCPを発動した企業と発動しなかった企業があった。この違いは発動の考え方の違いに由来する。すなわちBCPの中に含まれる感染予防対策は多くの企業で実施されており、業務の縮小などの措置は実施されていないことは共通していた。したがって、業務の縮小そのものをBCPと考える企業では、BCPを発動しなかったと回答したと考えられる。
 
  2) 感染予防対策の実施
新型インフルエンザ(A/H1N1)のメキシコでの発生から国内発生に至る過程では、その病原性が明確でなかったことより、病原性が高いウイルスを想定して対策を開始した企業が少なくなかった。その中には、海外への出張自粛やタミフルの配布、家族が感染した場合の社員の出勤禁止が含まれていた。その後、病原性が明確になるにつれて対策が縮小され、有症状時のマスク着用、出勤時の体温確認、うがいや手洗い、アルコール消毒の励行などが一般的に実行された。
 
  3) 情報収集と提供
ほとんどの企業において新型インフルエンザ対策の担当者は、様々な情報源から継続的に情報の収集を図った。情報の解釈において、産業医等の医療従事者が重要な役割を果たしていた。また、社内での感染者の情報は、ほぼ完全に把握されていた。
一方、ほとんどの企業において、イントラネット、電子メール、社内報などを用いて、会社の方針や対応策、最新の感染症情報などが従業員に提供されていた。
 
5.経験を通しての課題
  今回の経験を通じて、各企業から挙げられた主な課題を、社内的対応上の課題と行政等への要望に分けて列挙する。
 
  1) 社内的対応
  • 今回の発生したウイルスが低病原性であったため、高病原性の場合にBCPが本当に機能するか。
  • 高病原性の新型インフルエンザが発生した場合、タミフルやその他の備蓄品の使用をどのように判断するか。
  • 感染者が増えれば、業務遂行が可能な交代要員が不足する重要業務がある。
  • グループ会社、関係会社まで、対策を十分に浸透させる必要がある。
  • サプライチェーンを構成する各企業との連携が取れるか。
  • 今後、社内の意識をどのように維持するか。
  • BCPの詳細事項の検討が必要である。
  •  
      2) 行政等への要望
  • タイムリーで、有用性の高い情報を提供してほしい。
  • 業種によっては、企業間での調整の場を確保してほしい(流通業)。
  •  
    6.今後の準備
      基本的な内容をもとに、様々な病原性のウイルスへの対応が可能なマニュアルの策定を検討している企業が多かった。その他、体制の強化や季節性インフルエンザに対するワクチンの確実な接種を計画している企業があった。
    一方、定期的な訓練を計画している企業はほとんどなかった。



    考察
     
    1.準備状況や新型インフルエンザ(A/H1N1)の対応状況について
      1) BCP策定および危機管理組織の状況
     今回インビュー調査の対象は、事前の質問紙調査で、「新型インフルエンザ対策BCPを策定した」とする企業であった。これらの企業では、2009年春の新型インフルエンザ(A/H1N1)の発生前にBCPの策定を完了していた企業と発生時に策定中であった企業が含まれる。企業によっては、経営者の事前の意識が高く、早くから新型インフルエンザ対策に取り掛かっていた企業があった。

     策定の際、感染率や欠勤率の想定において政府の「事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」を参考にした企業がほとんどであった。しかし、具体的なBCPの内容については、十分に参考となる情報がなく、各企業で試行錯誤の状態であった。その際、業界団体のつながりやその他のネットワークが役に立ったとする企業が多かった。

     多くの企業で、新型インフルエンザ対策BCP策定以前に、地震対策のBCPが存在しており、危機の状況は異なるが、新型インフルエンザ対策BCPも既存のBCPと並列または危機管理対策のマニュアルの一部として位置づけられていた。同様に組織についても、平時の危機管理に対する組織が存在しており、これらの組織では企業トップが責任者となり円滑な意思決定を可能とした。そして新型インフルエンザの発生状況が一定レベルになった際に、新型インフルエンザ対策本部等の危機発生時の組織が立ち上がることになっていた。
     
      2) BCPの発動や感染予防対策の実施
     今回の新型インフルエンザ(A/H1N1)の発生において、BCPが発動された企業と発動されなかった企業があったが、どちらの企業においても事業継続上の問題は発生しておらず、感染予防対策をBCPの一部としてとらえていた企業と、今回はBCPを離れて予防対策を行った企業という違いがあったにすぎない。いずれにしても、今回の病原性が低い新型インフルエンザ発生が、今後予想される病原性が高い新型インフルエンザ発生に備えた貴重な準備の機会になったと考える企業も多かった。

     具体的にはマニュアルの再検討のほか、従業員の出勤管理や手指消毒の励行などの予防対策、従業員の感染情報の収集や、会社の方針やルールなどの情報提供が行われた。特に、マスコミによって錯綜する情報に対して正しい情報を伝えるために、社内イントラネット等を利用して、頻繁に情報提供が行われていた。いずれにしても、今後継続的な改善が必要なものの、調査したほとんどの企業では、基本的なマニュアルが出来上がっていることは大きな成果といえる。
     
    2.対策の課題
      1) 病原性に応じた柔軟な対応
     一方、当初から新型インフルエンザ対策BCPを用意していた企業では、病原性の高いウイルス想定しており、新型インフルエンザ(A/H1N1)では、マニュアルの多くの部分を適用できなかった。それに対して、病原性に分けた複数の対応をマニュアル化する作業を行った企業と、むしろマニュアルを簡素化して状況において判断を行っていくという対応を選んだ企業が存在した。いずれも、幅広い病原性のウイルスの発生に備えるための準備としては特記に値する。

     このようなマニュアルが確実に機能するためには、少なくとも「病原性に対する確実で迅速な情報が提供されること」と、「提供された病原性等の情報に基づき適切な判断ができる人員が存在すること」が重要になる。前者は、国に求められる機能と考えられるが、後者については産業医等の企業内の医療従事者や外部コンサルタントなどが相当する。新型インフルエンザ対策BCPの策定や発生時の対応において、今回インタビューした企業の多くで、産業医が重要な役割を果たしており、企業における新型インフルエンザ対策におけるキーパーソンといえる。
     
      2) 企業としての社会的リスク
     新型インフルエンザ対策は、発生初期の段階ではマスコミとして取り上げられるなど社会的注目を浴びた。そのため、対応が不適切な場合には、経営上のリスクになりうると認識されている。その中には企業が欠勤を指示した場合の労務上の取扱いなどが含まれるが、厚生労働省が2009年10月に一定の見解を出したことで多くの企業が評価をしている。

     しかし、それ以外にも社会として何が正しい対応とされるか不明確なものがある。感染防止備品の備蓄やリスクが高い業務に従事する従業員に対するタミフルの予防投薬や海外出張時に事前配布などが該当する。このようなことについては、企業として一定の準備があっても、公表できないとする企業が少なくなかった。
     
      3) サプライチェーンの問題
     今回調査したすべての企業は大企業に属する。これらの大企業で重要業務に位置付けられる業務が継続されるためには、サプライチェーンが機能する必要がある。しかし、サプライチェーンはすべての構成企業がグループ会社であるとする特定の業種を除き、多くの中小企業を含む企業群によって構成されている。

     サプライチェーンを巻きこみBCPの検証を行った例外を除き、調査したほとんどの企業では、これら企業群に新型インフルエンザ対策の準備を要請したにすぎない。しかし前述のように、新型インフルエンザ対策は、マニュアルが存在するだけでなく、備品の準備、実際の発生時の対応の判断など、資金と人員が準備に不可欠である。そのため、中小企業では対応が困難な部分も少なくない。

     今後、中小企業が利用可能なツールの提供や資金融資など、支援対策が必要であるが、行政機関のみでなく、大企業がサプライチェーンなどの取引関係を通じて、貢献していく仕組みが必要と考えられる。
     
      4) 意識の持続
     新型インフルエンザ(A/H1N1)の発生で、多くの企業で対策に向けた準備が行われ、経営者から一般従業員に至るまで認識が高まった。しかし、今後長期にわたって新規発生がなければ、その意識は低下することが予想される。今回調査した多くの企業でも、定期的な訓練は予定されていなかった。我が国全体や企業単位で、どのように意識を維持していくかが重要な課題として挙げられる。
     
    3.国・業界・企業の役割
       国が出したガイドラインについて、BCP策定の想定を行う上で役にたったという回答があったものの、具体性がなく不十分であったとの意見が多かった。一方、あまりにも詳細なガイドラインはかえって混乱を生むことを懸念する声も少なくない。そもそも業種によって重要業務の考え方や社会的意義、従業員の感染リスクも異なる状況で国のガイドラインに詳細事項を求めることは困難と考えられる。

     一方、様々な業界団体が新型インフルエンザ対策において情報交換や業界のガイドライン策定などの役割を果たしており、その情報は具体性があり有効であったという意見が多く存在した。新型インフルエンザ対策、におけるより具体的なレベルの準備のあり方を検討する上で、業界団体には重要な役割が存在すると考えられる。

     改めて、国レベル、業界団体レベル、企業レベルでの役割分担やガイドラインの在り方が検討されることは、今後の企業・事業所における新型インフルエンザ対策全体の再検討においては、重要な意味を持つと考えられる。



    結論
     
     平時からの対策として、多くの企業が国のガイドラインや業界団体などのネットワークからの情報を参考に危機管理対策の一部として新型インフルエンザ対策BCPを策定するとともに、感染状況に応じ企業トップを責任者とする対策本部の立ち上げが出来る準備を行っていた。
     今回の新型インフルエンザ(A/H1N1)の発生においては、低病原性であったため事業継続に影響なく、BCPは発動せずに感染拡大防止対策を行った企業もあった。
     今後は迅速な病原性情報に基づく柔軟な対策や多くの中小企業を含むサプライチェーンを含めた対策が必要と考えられる。
     行政、業界団体、企業が役割を再検討しより有効な対策がとれるような仕組みづくりを行うとともに、今後も感染症に対する危機管理意識を持続していくことが課題である。

    文責:環境疫学研究室/